≪≪≫≫  Altered States 黄金町・視聴室

2015年12月22日 黄金町・視聴室 ≪≪≫≫(metsu)、Altered States


11月23日に神保町・視聴室で行われた≪≪≫≫(metsu)の2nd CD リリースパーティーの第二弾が、Altered Statesをゲストに迎えて黄金町・視聴室で開催された。


※ doubtmusicでの1stCDリリースパーティー



3部構成で、第一部が各メンバーの組み合わせによるデュオ、トリオでの計7組の演奏、第二部はAltered States、第三部は≪≪≫≫の演奏だった。



第一部の7組のユニットでの演奏は、予想をはるかに超えた内容のものとなった。個人的には、≪≪≫≫と、Altered Statesそれぞれのグループを楽しみにしていたので、良い意味で裏切られた形になった。




内橋和久(g)/石原雄治(ds)



内橋和久は、エフェクターを使ってさまざまな音色の長音をずっと出し続けていた。これに対する石原は、慎重に音を選んでいく。(前回レポートしたことのある)liiilのときに多用した、右に配置させたティンパニーをあまり使わなかったのが印象的だった(これは同日を通して感じたことだった)。やがて石原は弓を持ち、ハイハットあたりに装着しているマイクホルダーのような金属パーツにあてて弾いた。そして、シンバルの端でスネアをこすった。でてきた音は、内橋の長音とシンクロするような、ほんとうに不思議な伸びがあった。この感覚は、前回見たliiilのライブでの怒涛のドラミングからは想像できないような静謐なものだった。



芳垣安洋(ds)/竹下勇馬(elb)


芳垣のドラミングは、同日の彼の演奏のなかで、もっとも力強いものだった。竹下のフレットレスベースも、この日の彼の演奏のなかでは、音数の多いものだった。しかし、力と力のぶつかり合いとはならずに、ふたりの演奏の静かで微妙な変化が堪能できた。数少ない芳垣のドラミング鑑賞のなかで、この演奏は私にとても強烈な印象を与えた。いつかじっくり芳垣の演奏をライブで聴いてみたいと思った。




ナスノミツル(elb)/石原雄治(ds)

ナスノミツルのベースは、エフェクターを多用して輪郭のあいまいな微妙な音を出し続けた。ブラインドではおそらくベースの演奏とは思えないような音だった。ここに、気鋭の石原がどう対応するかが気になった。
ナスノの音に対峙するように、石原は、遅速、強弱取り合わせて、とても良い感覚でドラミングした。ときには、5連符(?)で挑発するように、ナスノの音の出方を探った。ナスノがこれに応じたときは、聴き手の私にも達成感が伝わった。





内橋和久(g)/大島輝之(g)/中田粥(bugsynthesizer)


内橋、大島の背後に座席があったためか、どれが誰の音なのか、半ば判然としないまま時が過ぎていった。もちろん、二人はまったく異なった演奏家なので、区別できない私の耳に問題があったと思う。視覚を伴わない記憶は、単なるリスナーである私にとっては不可能に近いことが良く分かった。どうなっているのかと、いろいろと探っているうちに、あっという間に終わってしまった。黙ってじっと聴いておくべきだったと思った。
だが、内橋と大島の共演を見ることができて良かった。二人の共演は、なかなか聴く機会はないと思う。




ナスノミツル(elb)/中田粥(bugsynthesizer)


ナスノミツルが不思議な音を出したのに対して、中田粥もうまく表現できないが、あえていえば茫洋とした音を繰り出した。中田粥は、配線のコードをつないだり、外したりしているように見えた。うまく説明ができない電子音だった。けれどノイズそのままというわけではない。謎めいた音という点では、7組のユニットでは一番ではないかと思う。私にとっては何度も繰り返して聴いてみて、初めてことばにできる音なのだろう。



芳垣安洋(ds)/大島輝之(g)


私の席から大島輝之の姿はまったく見えないに等しいので、どのように音を出しているかが良く分からなかった。もともと良く観察していても分からないことのほうが多いので仕方のないことだと思う。ただ、大島がピッキングをあまりしていないことだけは分かった。
ロングトーンが続いた。
芳垣は、最初マレットで軽めに叩き、それからマレットを反対に持ち、取手の方で叩いた。竹下とのデュオに比べると、芳垣のドラミングのニュアンスは微妙なバランスを持っていた。ダウンストロークよりも引く力の方が強く、余韻のあるドラミングだった。



内橋和久(g)/竹下勇馬(elb)


内橋和久みずからが指摘したことだが、ふたりの演奏家の配置が興味深かった。前に内橋が立って、真後ろに竹下が座って縦列で並んだのだが、ギターのネックと、フレットレスベースのネック、それに二人の体の向きが同じだった。
演奏も、ロングトーンの応酬となった。ただ、ぶつかりあうのではなく、補完し合うような具合に、音色の異なった長音が会場を漂流した。



1部が終了した時点で十分な満足感に浸った私は、時計を見た。20分間しかたっていないことに気付き驚いた。


そこには、1時間超の演奏を聴いたときに感じる尺みたいな時間の感覚があったからだ。それだけ密度が高く、簡潔にまとめられた音楽が展開されたことの証左なのだと思う。


それぞれのユニットの説明のなかで、うまくことばにできなかったのが悔しいが、もともと音楽をことばで表現するのは絶対に不可能だと思っているので致し方ない。
しかし、これほど緊張感が続く20分間はそう体験できるものでもないと考えている。



Altered States
内橋和久(g)
ナスノミツル(elb)
芳垣安洋(ds)

このセットの内橋は、饒舌にギターをつま弾いた。コードカッティングを多用しながらも、シングルノートのソロをしばしば取った。これ以上行くかというところで常に芳垣のドラミングが勢いをコントロールした。最初は、芳垣の意のままのドラミングなのかと思ったが、演奏前に内橋が音量制限のある会場であることを観客に断っていたのを思い出した。演奏後にも、「これ以上やると。。。」という旨のことばを内橋は漏らした。


ともあれ、この勢いをたくみに抑制する様子はグループのみごとな音作りの一面を見せていた。


ナスノミツルが、ひたすらリズムを刻んだ時間帯があった。ヘビーリスナーにとってはともかく、私にとっては稀有な体験だった。




≪≪≫≫

大島輝之(g)
石原雄治(ds)
竹下勇馬(elb)
中田粥(bagsynthesizer)


大島が近年参加するグループのうち、liiilはすでにレポートしている。liiilと同じく、石原雄治がドラムスで参加しているのが気になっていた。


≪≪≫≫は、フリージャズあるいは、インプロヴィゼイションというフォーマットが仮にあるとするならば(決して皮肉な意味ではない)、そういった趣(おもむき)をあえて踏襲したグループだと思う。ノイズ色の強い音も多用するものの、1曲まるごとノイズで通すことはなく、合間に澄んだ音が聴こえることもある。ギターとフレットレスベースが違ったベクトルを保ちながらも、軌を同じにした音圧で迫る。そこに沿うように、バグシンセサイザーの無調のコードが漂う。微妙なニュアンスを醸し出したドラムスが重層的に並び立つ。

インプロと書いた手前、矛盾した表現になるが、みごとに「構築」された音楽だと感じた。



黄金町を訪れたのは、3年ぶりだった。良い時間を過ごせて幸いだった。