The Thing ゲスト 坂田明 今井和雄 Super Deluxe

12月6日 Super Deluxe The Thing


THE THING:
Mats Gustafsson - alto, tenor, baritone, live electronics
Ingebrigt Harker Flaten - double bass and bass guitar
Paal Nilssen-Love - drums
ゲスト
坂田明(alto, clarinet, voice)
今井和雄(guitar)


00年代の初め、ミュージックマガジン連載のジャズ欄「じゃずじゃ」にスカンジナビアの音楽家たちがたびたび紹介された。とりわけノルウェーの音楽家たちは、ネット普及の利も相まって、旧来のジャズメディアが取り上げなかった領域を中心に重要性を高めていった。


そうした流れのなかで、The thingのメンバーたちは、ブログと掲示板しかなかったSNS未発展の時代において、日本でも確たる名声を得た。








私自身といえば、メンバーのひとりである、Paal Nilssen-Loveの参加したセッション形式のライブを過去に何度か見に行ったことがあった。しかし、The thingなどのグループでの演奏は、記録媒体以外では未体験だった。



全国展開された日本ツアーの3日目にあたる同日の夜は3部構成で、最初がギターの今井和雄を入れたセット、次がサックス/ヴォイスの坂田明の入ったセット、最後(アンコール)には今井、坂田の参加したクインテットとなった。



1st セット
ゲスト出演した今井和雄は、ハーモニクスを多用したのち、ハンマリングとライトハンドを激しく繰り出した。ハンマリングといっても、左手でネックの上からフレットを叩くという具合であり、ライトハンドも右手で弦をタッピングするという感じで、いわばギターを打楽器のようにミュートしながら激しく打ちつける演奏を展開した。これに応じるように、Paal Nilssen-Loveは最初のうち、スネアをミュートしながら静かに叩いた。そして、フロアタムとライトシンバルを加えながら、激しく鳴らしていった。この日のPaalは、激しさの極致に至ると、ライトシンバルをしばしば叩いた。



Mats Gustafssonは、バリトンサックスを手に持った。楽器が良く鳴り、音色も素晴らしい。まったくメカニカルな感じがしなかったのは、ビンテージサックスの特性という理由からだけではないと思う。バリトンサックスの咆哮の空気感のようなものが前面に出て、技術面での秀逸さを薄れさせているように感じた。



Ingebrigt Håker Flatenのダブルベースは、ほんとうに太い音でリズムを刻む。大音量のサックスとドラムスにかき消されないほどの強い音だ。ネックのすぐ下あたりをグリップして、ときどき右手をスラップしたりして適格なリズムを取り続ける。ヴィブラートの掛け方も強烈だと感じた。当たり前のことだが、Paalの複雑で強烈なドラミングとの相性は抜群だった。



今井和雄は、執拗にタッピングを繰り返した。



やがて、Paalがドラミングを休止した。全体の演奏の集中が緩んだ。しばらくしてから、Paalは、ドラを叩いた。そして、スネアとフロアタムをブラシで軽く叩き始めた。Ingebrigt Håker Flatenがエレキベースを手に持った。執拗にスケールを弾いた。Paalは、8ビートでスネアとハイハットを叩き始めた。



これに今井和雄が反応した。それまでのタッピングを封じて、ピックで正確無比なスケールを奏でた。フルアコハウリングしないのが不思議なくらいノイジーなコードカッティングで色付けする。



今井和雄は、以降の演奏においてタッピングを用いることはなかった。



おそらくは初のゲスト参加となった今井和雄を迎えながらも、ユニットはバンドとしてのサウンドを次第に色濃くしていった。




2nd セット


坂田明のアルトサックスのソロで始まった。Ingebrigt Håker Flatenがアルコで旋律を奏でた。Paalは、ブラシを使っていたが、やがて右手をスティックに持ち替えた。頃合いをみて、再びブラシを両手に持った。坂田のアルトサックスと、Mats Gustafssonのテナーサックスがロングトーンで応酬する。Ingebrigt Håker Flatenが、エレキベースを手に取った。ハーモニクスを使ってしばらくしてから、弦をミュートしてピッキングした。




終盤は、Mats Gustafssonがテナーサックスで長いフラジオトーンを執拗に奏でた。坂田明は、クラリネットに持ち替えて応酬する。そして坂田は、浄瑠璃風のヴォイスを繰り出した。Mats Gustafssonのテナーサックスのフリークトーンと激しく対峙する。



坂田明は、最初からThe thingの音楽にほんとうに溶け込んでいた。この和のテイストを持つヴォイスでさえも日本的な情緒が強調されずに、スカンジナビアサウンドにみごとなまでに同化するさまは、良い意味での驚きだった。



Mats Gustafssonのテナーが高音を強調し始める。そして、アルト、ベース、ドラムスのトリオ演奏が始まった。それからテナー、ベース、ドラムスのトリオに転じた。



2曲目は、(おそらくは冗談で呟いたタイトルがJapanese Christmas Song)急速調の演奏だった。



最後のアンコールでは、今井和雄がステージに招かれた。今井和雄は、ピッキングとコードカッティングに徹した。Paalのドラムスは、エイトビートを刻んだ。Mats Gustafssonのテナーは、ものすごいテンションの咆哮をひねりだした。エンディングを探るPaalを、Matsが右手を上下に振りながら「もっとやれ」と煽った。全員のエネルギーがほとばしった。






Bobo StensonのピアノトリオのCDが数曲、セットの合間にかかった。Super Deluxeの会場では、私が容易に推測できる音楽が流れたためしはないので驚いた。



アンコールが終わった後に流れた曲は、ピアノソロの”Emily”("Spartacus"?)だった。ピアニストの名前は分からなかったが、前衛性と伝統を兼ね備えた風格のあるジャズバンドを聴いたあとにぴったりの音楽だと思った。






私のブログでは、極端なピンボケ以外は、撮った写真(20枚程度)を全部アップロードすることにしています。
今回は、珍しく100枚以上撮ったので、読者のためにはいつものように20枚程度に取捨選択するべきでした。しかし、すべてつながっているように思えて、その作業ができませんでした。すみませんが、ご了解ください。