火影に夢をみる 首くくり栲象 山崎阿弥 旧電機大学跡地地下空間
火影に夢をみる
10月10日
旧電機大学跡地地下空間(東京都千代田区神田錦町2-2)
演出:生西康典
出演:首くくり栲象、山崎阿弥
普段は舞台芸術には縁がないものの、山崎阿弥と鈴木昭雄が共演しているネット上の動画を見る機会に巡り合えたのが、この舞台を見るきっかけとなった。
会場に着いてみると、ビルを取り壊した後にできたと思われる、だだっ広い空き地だけが目に入った。真ん中あたりに、地下に通じている扉があった。
階段を降りて、通路を歩くと入口が見えた。向かって右側に窓があり、薄明りが入っている。それ以外は闇だった。
奥行50メートル、幅100メートルくらいのスケルトンの空間が舞台となった。
窓から離れた舞台の左側はすっかり闇に包まれて目視が不可能な状況だった。右側の奥隅にガレキの石が積まれている。そのうえを見ると、天井から縄が垂れ下がっている。縄の先端は、楕円の孤を描くように固く結ばれていた。
正式な舞台の壇らしきものは無い。コンクリートの床がただ広がっていた。対角線上にスツールが一列並べられた。
着席すると、頭上に梁のようにわたらせた、Πの字状の鉄筋の柱が、いくつか構築されているのに気付いた。
開け放たれた窓から秋の夜風が漂ってくる。暗闇に目が慣れてきたが、だんだんと闇が支配していく気配を感じるようになった。
左側の奥で炎が上がった。
山崎阿弥が燭台を持っているのが見えた。ヴォイスと判断しかねる音を不思議な発声で出している。
発声をしながら、ほんとうにゆっくりと歩みを進めた。左手奥から前方に向かって、あるいは右側に向かって。
気付くと、首くくり栲象が右手のそでから現れていた。首くくり栲象も、ゆっくりと歩みを進める。山崎阿弥のいる方向に向かって。
首くくり栲象は、やがて山崎阿弥の近くにたどり着いた。
山崎阿弥は、舞台の右側に向かって後ずさりした。首くくり栲象が追った。
1メートルの歩みは、2〜3秒かかるほどの速度だった。そのゆっくりした歩みに、さまざまな情念が宿っているように思えた。
私が座っている窓側の席まで来た。
首くくり栲象は、情動に支配されていた。
山崎阿弥は、焦燥に駆られていた。
山崎阿弥の持っている蝋燭の炎が、後を追っている首くくり栲象の顔を照らす。
Π字型の構築物に縁どられるように立った、首くくり栲象の彫りの深い顔をみると、在りし日の西洋画家たちが描いたレンブラント風の習作が思い起こされた。
再び左手奥のあたりに戻ると、燭台の火を持った山崎阿弥が、首くくり栲象を追う番になった。
私の目の前を通りすぎたとき、首くくり栲象は諦観していた。
右奥のガレキの山近くまで来ると、首くくり栲象はひとりでゆっくりと登り、体を伸ばして縄を手に取った。
そして、楕円状に編まれた縄を首に掛けた。
ガレキの山から足を離すと、体が宙を舞った。
めいっぱい右側に回ると、ガレキに足を掛けて反動をつけて、反対側の左方向に回った。
縄が首に掛かっている。
活発に反転を繰り返したのち、ぐったりした。
情動と諦観。
首くくり栲象は、首に縄をかけてもなお追求した。
フライヤーに、演出の生西康典氏による作品解説が記されているのを帰宅途中に気付いた。私の感じたことは明らかに生西氏の意図したものとかけ離れている。しかし、私自身の感想を素直に綴ってみた。