Japanese New Music Festival 小岩Bush Bash
9月2日 Japanese New Music Festival 小岩Bush Bash
いつだったか、吉田達也のライブに行ったときに配られていたフライヤーを見て初めて、この演奏会(といったら良いのだろうか)の存在を知った。それからずいぶん経った。
この日、初めて聴きに行くことになった。
Japanese New Music Festivalと銘打っているが、いわゆるニューミュージックというものではなく、3人の音楽家(河端一、津山篤、吉田達也)が複数のユニットで次々と演奏するという、ファンにとっては本当に贅沢な催し物だ。
この日の演奏のユニットは、Acid Mothers Temple(AMT) SWR、津山篤ソロ、Ruins Alone、河端一ソロ、サイケ奉行、赤天、Zoffy、スビズバXだった。
AMT SWR:河端一(g)、津山篤(b)、吉田達也(ds)
サイケ奉行:津山篤(g, b)、河端一(b, g) 後半に吉田達也(ds)
赤天: 津山篤、吉田達也(器具) 後半に河端一(器具)
Zoffy: 河端一(g)、津山篤(b) 後半に吉田達也(ds)
ズビズバX:河端一、津山篤、吉田達也(Vocal)
以上のユニットで聴いたことがあるのは、Acid Mothers Temple(AMT) SWRとRuins Aloneだけだったので、とても楽しみだった。
最初のAMT SWRは、急速調の激しい曲だった。吉田達也のドラミングがしょっぱなから、全開に飛ばした。うまく表現できないがメタルのような感覚だった。
(前回聴いたAMT SWRは少なくとも私の耳には重みのあるプログレッシヴロックのように聴こえたので、ずいぶんと驚いた。)
これに比べて、サイケ奉行はずっしりとしたリズムの演奏だった。全く別のバンドの演奏を聴いているような気がした。
このメンバーでは当たり前のことなのだろうが、その当たり前のことに単純に感動してしまった。
赤天は、パンツ(ズボン)のジッパーや、ペットボトル、歯ブラシ、カメラなどを曲ごとに選択して使用する。それぞれの器具(?)を操作して出した音を電気的に増幅させたり、加工したりして楽しませるユニットだ。途中でドラムスの合いの手が入るなど賑やかなステージングに、客席からたびたび笑いがこぼれる。スマホ・カメラを観客が一斉に向けたのは、この時間帯だった。
Zoffyも声援が多かったユニットだった。
まずディープパープルの「スモークオンザウォーター」を、ボブ・ディランの声色で演奏した。原曲を、カリカチュアと表現できるほど崩して演奏した。
次は、レッドツェッペリンの「移民の歌」を、キャプテン・ビーフハート風のヴォーカルで聴かせた。途中それが、ホーミーになった。
最後のズビズバXは、アカペラグループだった。音程を外したところが味となって、エンディングに向かっていった。
歓楽という表現がふさわしい終演だった。
この日のライブで、私にとって一番印象に残ったのが、めいめいのソロだった。
前述のとおり、トリオ演奏のAMT SWRの次に、津山、吉田、河端の順番でソロが演奏された。
まず、津山篤の番だ。津山は、あまり耳慣れない音階をベースで奏でる。
南アジアか西アジアのような感じがするが、案外東南アジアのような気もする、もしかすると中東か、などと勝手に想像してみる。唱法は、ホーミーだった。
思わず聴き入ってしまった。
次は、吉田達也のRuins Aloneだった。
何度聴いても良い心地がする。もちろん毎回、違う展開なのだとは思うが、聴き手を常にわくわくさせる疾走感がある。
ベース奏者不在の状況にあっても、Ruinsを聴けるというのはともかく嬉しいことだ。
しかし、ステージ右手に目を向けると、河端一が器材の前で腰をおろしたまま、うとうとしているのに気付いた。
前日の秋葉原グッドマンの”アホンダラーズ”、それに二日前の高円寺・円盤の”アメリカからのお客さん”と立て続けにライブがあり(この晩の翌日から2夜連続で”デアデビルバンド”のライブがあった)、疲労感があったのだろうか。それにしても、吉田達也の怒涛のドラムソロの真ん前で居眠りができるというのは驚きだった。
津山篤が気付いて笑った。
吉田達也も演奏中に目をやり、ニコニコ笑った。
何と牧歌的な風景であることか。
Ruins Aloneが終わると、河端一に声が掛かった。
いくぶんよろめきながら、ステージ正面に立った。
ヘッドレスのスタインバーガーのギターのフレットに、円盤状の金属を挟んだ後、しばらく円盤に触れながら爪弾いた。そして右手に弓を取った。
どこから出てくるのか分からない音がたくさん聴こえて来た。ループなどのエフェクターの影響もあったのだとは思うが、それだけでは説明できないと思う。
まことに何ともいえない摩訶不思議な世界に突入してしまった。
津山篤、吉田達也、河端一と、それぞれのソロが続いたが、最後はひと続きの絵巻物を見ているような感覚になった。
帰途につくと、秋の夜風が気持ちよかった。