6 Strings Ensemble  SuperDeluxe








西麻布スーパーデラックス 2014年1月25日

6 Strings Ensemble

四ツ谷の「いーぐる」でジャズ鼎談をたっぷり聞いた1時間半後に、スーパーデラックスのライブが始まった。

CDとはいえ、ジャズをたくさん聴いたうえ考えさせられるような内容のイベントだったため、スーパーデラックスのライブ会場ではなかなか頭が切り替えられないでいた。



フライヤーでは、タイトルが「6 Strings Ensemble」とあった。また、杉本拓が最初に来ており連名となっていたので、バイオリンなどの弦楽6重奏だろうかとも思った。

だが、単独のソロまたは、グループでのライブだった。

出演順に記すと、

DJ Go和馬
遠藤隆太朗
透過性分子
杉本拓
冷泉
Leon+ from Switzerland
Antoine Lang (voices/electronics)
David Meier (drums)
Raphael Ortis (bass)
Louis Schild (bass)


最初は、DJ Go和馬だった。
当然ライブの合間に選曲したものを再生するのだが、これがとても良い選曲で私の趣味にぴたりとあった。

私が行くスーパーデラックスのライブイベントでは、DJがインストの良い曲をかけるが、DJ Go和馬の選曲はとりわけ気に入った。








遠藤隆太朗のギターソロ。



ストラトキャスターに、フェンダーのアンプをつないで、ディストーションとブースターだけのシンプルなセッティングだった。

透明感のある澄み切った音だった。複雑なことはやっていないが、とても引き込まれた。フィードバックでさえもきれいな音がした。表面上ではなく奥行がある端正さがあった。

遠藤隆太朗のことを知らなかったので、グーグルで調べたが、あまり多くの情報が得られなかったのは残念なことだった。










透過性分子は、PSFのサイトで知っていた。PSFでも薦められた記憶がある。



ソリッドギターを寝かして、ブリッジの下にエフェクターを接続させていた。ギターの弦を、二股の金属棒を2本使ってヴィブラフォンのように軽く叩いて音を出すのだが、これが不思議な音で金管楽器のようにも聴こえるし、自然界に存在する音をサンプリングしているようにも聴こえた。

一番近いのが、水琴窟(すいきんくつ)を水面下で録音した音に似ている。この音がベースとなり、幾重にも増幅された効果音が合わされる。



PSFのサイトによると、かつてリリースされたCDは、国内よりもむしろ海外からの反響が大きかったそうだ。



唯一無二だ。













杉本拓の番が来た。


私は、アンサンブルや佳村萌とのデュオを聴いたことはあったのだが、ソロは初めてだった。

かつて、杉本拓のCD「ライブインオーストラリア」を自宅で聴いていた時のことだ。夏の夕暮れ時だった。にわか雨が降った。強く降ったかと思うと止み、止んだかと思うと、弱く降った。このライブでの杉本拓の演奏は、休符がとても長かった。不思議なことに杉本拓の奏でる単音のタイミングが、降水の強弱に重なった。

さて、スーパーデラックスでの演奏は、ハーモニクスのみを用いたものだった。杉本拓は、演奏前に冷蔵庫のスイッチを止めるように要求した。

とても微妙な音だった。

楽譜があった。作曲されたものだったと思う。単音のみを使ったが、休符はあまり長くなかった。メロディアスな音が続いたかと思うと、その直後に微分音らしき音が続く。


本当に言葉で表現することは難しい。






「ライブインオーストラリア」のライナーノートとして、2004年に杉本拓が書いた文章に注目したい。



何かになってはいけないと思うんです。というのは、「音は正直だ」とか「自己超越としての表現」とか「聴覚を研ぎ澄ます」、「空間的」だのの実際は何を言っているか分からない「言葉」の一群があって、これらはある種の音楽と対応しています。すべてではありませんが、「即興演奏」──以下、私の扱う問題は即興とその周辺に関してのものです──と言われるものの多くは特に、これら「何を言っているか分からない言葉達」との格闘から逃れることが困難になっています。これらの「言葉」の示す特徴が即興界の微妙なジャンルを規定しているわけです。だからどんなことをやっても、結局そういうものになってしまう。言葉や言語から「音」を引き離す、実はこれ結構難しいんです。完全にそれをおこなうことは多分不可能でしょう。ならば、言葉や言語化を戸惑わせたり、ためらわせたり、つまずかせたり、突き放したり、つまりお互いがリッチになるような関係、そういうのを発見すべきなのかもしれません。


書く側としては、とても重いテーマだ。






冷泉の紹介文には、ドローン、ミニマルなどと書かれていたが、このブログではなるべくそうした表現は使いたくないと考えている。(そのものではないか、と反駁されれば肯定するほかないのだが。)

スカンジナビアなど海外でも活躍しているそうだ。

会場のスポットが消されてステージが真っ暗になり、冷泉の姿が見えなくなったので、どのような演奏をしているのか分からなかった。
だが、これは効果的で印象的なステージングだったと思う。





とてもダークな単音が長く続いた。10分以上の間だったろうか。
そして、別の音が重なった。当分それが続き、また別の音が重ねられた。私の耳では、ディレイやループがあったかは判別できない。

まもなく弦を弓で弾いた。これが歪みのある音だった。

そして、一音、一音と音が削がれていった。最後には無音となった。






トリを務めたのは、スイスから来日したLeon+だった。

グループの核となったのは、Raphael Ortis、Louis Schild の二人のベーシストから成るLeonというユニットで、この日は、Antoine Lang(voice/electronics)、David Meier (drums)を加えたカルテットで登場した。


といっても、この情報はライブ後に調べて分かったことだ。事前情報は何もなかったが、それがかえって良かったと思う。


即興演奏かと思ったが、よく練られた楽曲だった。



きわめて構築的なコンポジションで、変拍子のリズムも、休符も息がピタリと合っていた。






二人のベーシストは、いずれも5弦を愛用していた。2ベースのユニゾンも聴こえたが、アンサンブルでは和音を多用した。即興パートでは、同じ音階を急速調で繰り返した。かなり、ドライブ感のあるベースだった。





Pierre Favreに師事したという、ドラマーのDavid Meierは、激しく叩くというタイプではなく、メロディアスな音選びが特徴的だった。ドラムセットにセットされたパーカッション類を独特のタイミングで叩く。アメリカの音楽家や、もちろん日本の音楽家にもない、リズム感を持っている。




ヴォイスのAntoine Langは、とても存在感があった。声量もあり、重厚感があるヴォイスだ。ごく自然に、エレクトロニクスと生の声を融合させ、時にはバンドサウンドの主役となり、時には重要なアクセントとなった。






全部で、3曲演奏したのだが、終盤にかけてバンドは疾走感を増した。良いバンドだと思った。


Youtube で調べてみると、このグループ(Leon)のオリジナルメンバーの二人は、やはりLeon名義で即興演奏をしていた。






2月1日に梅ヶ丘で行われたライブでは、即興も演奏したようだ。機会があれば是非とも聴いてみたかった。