マルコス・フェルナンデス・沢田穣治・植野隆司



カネがあるときには時間がなくなり、時間のあるときにはカネがない。世の中の道理ですが、今は食べるための仕事に追われていて音楽はご無沙汰しています。
というわけでライブに行くのは、およそ一年ぶりでした。(8月の半ば過ぎのことでした。)

この間(かん)、ライブに誘われたり、あるいはライブに行くと言いながら、結局行かなかったことが多くありました。

ですが、どうにもできないことがあるものです。



そんな境遇のなかで訪れたのが横浜の黄金町にある「試聴室その2」でした。

simのライブ以来、3年ぶりです。

ライブのタイトルは「Port of Call VOLⅡ」。マルコス・フェルナンデス(Per)が主宰するセッションシリーズです。今回は沢田穣治(b:ショーロクラブ)と植野隆司 (g:テニスコーツ)がゲストでした。

メンバーの中で唯一CDなどの媒体でも聴いたことがなかったのが、沢田穣治のエレキベースでした。

とても驚きました。

独特のベースラインとギターフレイズのようなソロ。ベースラインは、私の未熟さも手伝って、これまでに聴いたことのない類のものに感じました。といっても楽理にうといので、うまく説明できないのが口惜しいです。

沢田が属しているショーロクラブのファンには当たり前のことだと思いますが、私が30年以上聴いていたジャズとはまったく違うし、プログレッシヴロックなどにもないようなベースだと感じました。

とてもやわらかい音色が醸し出す、ウネウネとしたリズム感覚。

ドラムスやパーカッションとともにボトムを抑えるというよりも、ギターと一緒に浮揚する、まるで茫洋とした海原にいるような錯覚に陥りました。

弦に指がアタックする音さえも聞こえないため、ベースラインがどこからか降ってくるような感じがしたのです。

本当に不思議なベースです。

植野隆司のギターとのマッチングは良かったと思います。ベースのキメがきっちりあって、リズムを取るというのではなく、ギターと渾然一体となって、音楽的カオスのような状態が提示されました。

植野のギターもわらかいタッチの、あいまいな余白のある音です。楽器を使いこなすというよりも、どのようにギターに語らせるのかが大きな意味を持っているように感じました。これは大事なことでした。

それにしても、この静かな昂揚感はなんだったのでしょうか。

そうかと思うと突然、マルコス・フェルナンデスが、鋭く切り込んでいく瞬間がある。このスティックが鋭い。

そして、そののちしばらく沢田がリズムキープに回ることもあるのですが、再びリズムキープからかい離していく。それを黙認するマルコス・フェルナンデスがいる。



音楽に身をゆだねながら、静かに暑い夜が過ぎていきました。